彼女とボクとすずむしと。
最近、朝晩は暑さがすっかりと影を潜めて過ごしやすくなりましたね。
窓を開けると「リーンリーンリーン」と鈴虫の鳴き声が聴こえてきて、少しセンチメンタルな気持ちになっちゃったり。
そんな気持ちを彼女と共有したくなって後ろを振り返ったんですが、鬼の形相で自らの足の匂いを嗅いでいたのでそっとしておきました。
多分、小2ぐらいの子供が見たら泣くタイプの鬼の形相。
どうやら最近、足の匂いを抑えるためにベビーフットを使ったらしく、その効果がバツグンに効いているらしい。
あっ、鬼の形相なのは機嫌が悪いからじゃなく、足の匂いをかぐときの癖らしいです。
ベビーフットを使うと、数日かけて足の皮がむけていくのですが、初日のむけ具合は「脱皮した?」と思うぐらいにドゥルンっとむけてて驚いた。
彼女もその時はめっちゃ喜んでた。
だからって、ご飯食べる前にその画像を嬉嬉として見せるのホントやめてほしい。
食欲が遥か彼方へフライアウェイしていくから。
そんで鈴虫の話に戻るんですけど、なんで「リーンリーンリーン」と鳴いてるか知ってます?
さっき調べてみたら、
『オスがメスを惹き付けるため』
なんですって。
鈴虫の寿命は短く、2〜3ヵ月ほどしかもたないらしい。
そんな短い一生を、一生懸命に生きている声が
「リーンリーンリーン」
なんですね。
人と虫。
種族は違えど、頑張っている声が美しく感じれるって素敵だ。
なんだか儚くない?と彼女の方に顔を向けると、
『靴がくせぇ。靴がくせぇ。』
と何故か目玉おやじの声マネをしながら、靴を両手に1足ずつ持ち、ベランダに向かっていった。
「それならコレ使ったら?」
そう言ってボクは彼女にグランズレメディを差し出した。
グランズレメディとは、靴用の消臭パウダーであり、靴の中に粉を振りかけるだけで臭いが消えてくれる魔法の粉。
それに加えて、長年悩んでいた足の臭いもめちゃくちゃ抑えられたから、一石二鳥のすぐれたシロモノだ。
『バヤルララー』
彼女は何故かモンゴル語でありがとうとボクに言い、靴の中にグランズレメディの粉を振りかけていく。
徐々にゴキゲンになっていく彼女。
こんなとき、決まって鼻歌を歌いだす。
歌う曲はいつもと同じ、レッド・ツェッペリンの"移民の歌"。
"移民の歌"と聞くと、朗らかな曲をイメージするかもしれないが、全然違う。 むしろバイオレンスなシーンでよく使われる曲だ。
王様 「移民の歌」
何故、彼女が鼻歌でこれをチョイスするのかは聞いたことがない。なんか怖い返事が返ってきそうだから。
靴にグランズレメディを振りかけた後、彼女は静かに外をしばらく眺め、ボクにこう言った。
『鈴虫の鳴き声ってさぁ……めっちゃうるさいよね』
そう言いながらも、月明かりに照らされる彼女の表情はなんだか儚げだった。
「なかなか嗜好が合わないもんだねぇ。ボクら。」
なんだかんだ、のどかな秋の夜長をまったりと過ごしている。